第二部 経済・社会を変える 第六章 市場原理を第一にする 家を持てない人にこそ良質な住宅を そこで私は、三十年ほどの定期借地権を設定した方がよいと思う。この場合は、アパートが建て替えの時期にきたとき借地権も切れるので、その後をどうするか再検討できる。また、四十歳で家を建てたとして、三十年後は七十歳である。その頃には、老後の身の振り方も決まっているだろう。また、三十年の定期借地権ならもっと土地代は安くなる。貸す方でも、生きているうちに土地が戻るのを期待できる。 また、地価問題の解決策にもなる。定期借地権で安く家が建てられると、土地を買う人がいなくなる。すると地価は下落するだろう。遺産相続があるので、相続税を払うために土地を売る人は必ず出てくるのに、買う人は非常に少なくなるからだ。もちろん、ある程度下落すると、土地を買って事業を計画する人は必ず出てくるので、どこかで均衡がとれるだろうが、土地神話は崩壊するに違いない。 もう一つ重要なことは、定期借家権である。 現在の最も住宅に困っている人たちは、公団住宅や公営住宅には入れなくて、なおかつマイホームを購入する余裕のない人たちであろう。前述のように、アパートは学生や単身赴任向けや新婚家庭用が中心で、子供のある家庭が入居できる貸家はあまりない。このため、劣悪な居住条件になっている。 この問題を解決するには、定期借家権をつくることだ。 たとえば、十年ものの定期借家権をつくれば、借りた人は十年後には必ずアパートやマンションから出ていく。このため、大家は安心して貸せるのである。立ち退きをめぐって裁判沙汰になる心配もないので、居住条件のよいファミリー用アパートや貸家を供給できるようになるだろう。 そうなると、子供ができたからといって、通勤が二時間も三時間もかかる場所に狭い家を無理につくってローンに苦しむこともない。都心の貸家に住んでゆうゆうと通勤し、ローンにも苦しまないですむのである。ローンに苦しまない分、レジャーとか教育、あるいは自分の生活をエンジョイするために金を使う。こうなれば、日本の消費構造にも大きな影響を与えるのではないだろうか。 このようにみると、本当に「人に優しい政策」とは、おしきせの公的住宅を提供することや金持ちが家を買えるにようにすることではない。制度を改革して、人々の知恵が生かされ、家を買えない人々が快適に生活できる状況をつくりだすことである。 住宅問題は大都市問題であるという視点からもう一ついえば、都心の空洞化を防がなければならない。現在、東京都心三区は人口流出によって小学校がどんどん閉鎖されている状態である。どうやって、都心居住を回復するか。 本当は、都心に住みたい人々は多いのである。しかし、住宅費が高すぎるために諦めて郊外に引っ越している。住宅費を高くしている原因の一つは、日照権の問題がある。都心の建物は、日照権の関係で建物の上の部分が斜めに削られている。都心に住みたいと思う人が、どれだけ日照にウエイトを置いているだろうか。都市の便益を重視するか、日照を重視するか、それは選択の問題である。 ところが、建築基準法では、東京の都心だろうが地方の田園地帯であろうが、容積率などの建築基準は一部の例外を除いて全国一律なのである。このため、東京には低層住宅が所狭しと密集している。 住宅問題が大都市問題であるということを考えれば、人々は何を望んで都心に住みつこうとしているのかを考え、建築基準法や都市計画など規制のあり方を再考する必要がある。
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