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第二部 経済・社会を変える

第五章 官僚統制を完全撤廃

管理型行政を廃止せよ


  もちろん、規制緩和ですべての経済問題が解決するわけではない。規制緩和を実行するという考えの根底には、規制緩和によって民間経済力が働き易くするという目的がある。したがって、規制緩和によってどのような形の民間活力が生まれてくるかということについて、明確なビジョンが提示されることが必要である。
  また、規制緩和とはいっても、規制が全く必要ないということではない。規制が全く存在しない無秩序な社会がうまく機能するはずがない。重要なことは、時代の状況にあった形に規制のあり方を変える、より正確に言えば社会的ルールの形態を変えていくことである。
  具体的に、どう規制緩和を実施するか。ここで、ぜひ強調しておきたいことは、規制緩和といっても、必ずしも企業の自由気ままな行動にゆだねればよいということではない。
  企業の自由な行動に委ねることが、いろいろな問題を起こすことは、この数年の様々な経験からも明らかである。バブル崩壊で明らかになった金融機関による様々な反社会的行為、土地投機や株の投機による市場の不安定性、建設に見られる談合などの独占的な行為など、企業の行動は常に社会の利益になることばかりではない。
  また、薬品や食料品など国民の生命や健康に直接関わる分野については、まったくの野放しではなく、安全に関する確固たる保証が必要である。金融分野などでも、一般国民が安全に資産を運用できるような手段が提供されるべきである。老人や子供あるいは障害者などの弱者が生活しにくい経済であっては困る。
  政府の重要な役割は、一方で自由な経済の活力を最大限に活かしながら、同時に国民のリスクを極力少なくし、安定的で住み易い社会を形成することである。金融、運輸、厚生、食品など、さまざまな分野で行われてきた規制もこういったことを背景として運営されてきたのである。
  しかし、現実問題として、日本の伝統的な手法による規制や制度が、今後も期待する効果を生み出すかどうかということを考えると、はなはだ疑問である。金融の例が分かりやすいので、この例を用いて説明したみたい。
  これまでの日本の金融規制の基本は、政府が民間企業のさまざまな行動を厳しく管理するという形態をとってきた。銀行の支店の設置から証券会社の新商品の開発にいたるまで、金融機関のすべての行動は政府によって厳しくコントロールされてきた。そのうえ、銀行と証券の垣根を規定した証券取引法六十五条など、証券会社、商業銀行、信託銀行、長期信用銀行、生命保険会社、損害保険会社など、業種によって業務範囲を厳しく制限してきた。多少誇張した言い方をすれば、企業の行動をすべて役所が管理するものであった。
  このような方法は、いろいろな形で破綻し始めている。たとえば、金融活動が国際的になり、グローバルな競争が激しくなっている現代では、こういった規制に縛られた日本の金融機関は競争上著しく不利になる。その結果、日本の金融市場が空洞化するということが現実に起こりつつある。
  また、現実の金融が複雑化し、技術が高度になってきたため、行政当局が予想もしなかったような新商品や新市場が次々と出てくる。また、市場を管理しようとする行政当局の意思とは関係なく、市場は勝手な動きをしてしまう。市場はますます行政組織のコントロールの及ばないような複雑な動きをするようになり、もはや行政当局がすべてを管理することは不可能になってきた。
  したがって、規制の考え方を、一つひとつの行動を管理しようとするこれまでの手法から、企業がおかしな行動をしないようなルール型行政に変えていくことが必要である。
  バブル崩壊によって出てきた新しい政策は、金融の世界においてこのようなことが現に重要課題になっていることを示している。金融機関が業務内容や資産内容を公開し、自己資本比率などのルールを設定し、預金保険などの制度を整備し、基本的な行動はなるべく自由化しながら、ルール違反をした企業には厳しい罰則を課す、という方向が求められるのである。金融については、章を改めて詳述する。
  比喩的な言い方をすれば、伝統的な規制の手法は、親が子供の一挙手一投足をすべて管理しようとするようなやり方であったのに対して、ルール型行政は、子供の行動は基本的には子供の自由に任せるが、いくつかのルールについては、それを破れば厳しく罰するというものである。子供のためには後者の方がはるかによいのと同じように、現実の経済においてもルール型行政の方がはるかに優れている。

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